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    その間に、房一は駆けつけて来た駐在所の加藤巡査としやがみこんで、しきりと善後策を講じていた。傍には練吉も、神原喜作も、小谷も、それから徳次の顔まで見えた。徳次はきよろりとした眼を一層大きくし、加藤巡査と房一とが話す様子を熱心に見まもり、時々うなづき、口をもごもごさせて、何か云ひたげにしていた。加藤巡査はさつきから人々の塊りの間を説得して廻つていたが、無駄であつた。今や驚くほどの寒さが感じられたにかゝはらず、加藤巡査の顔は疲労し、汗を浮かべ、しきりに手真似を入れて話していた。明かに出張所側の手落ちだつた。が出張所の側では門を固く鎖ざし、どこかへ引きこんでしまつているので、話のつけやうがなかつた。

    河原の端にある高い築堤の上で、白い割烹着かつぽうぎを着た女が、口に手をあてて何か叫んでいた。

    房一はその時診察用の椅子に腰を下して、ゆつくりと煙草をふかしながら、何気ない風で男の様子に目をつけていた。彼は男の要求する意味を悟つた。たゞ治療をしろ、他のことは見て見ぬ振りをしてくれ、まして他言は無用だ、といふ意味だつた。

    「いゝや、まだ」

    「まだなかなかでせう。永いこつてすよ」

    「お粗末ではござりまするが、どうぞごゆるりと」

    「昨日、君とこの奥さんがバスに乗るところを見かけたが、――」

    房一はむつつりとしたまゝ答へた。

    ふと気づくと、玄関に人が立つていた、半シャツの男だ。瞬間、又来たな、と思つた。

    男は語尾に力を入れて、房一の眼の中をのぞきこんだ。

    「ねえ。はやく」

    「ねえ。――はやく。――患者ですわ」

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